2023.02.28 奥会津を学ぶ

福島県立博物館では2022年11月1日から来年3月19日まで、故小滝清次郎氏の写真展「写真資料から見える会津の風景~小滝清次郎民俗写真~」を開催している。寄贈された8000枚(コマ)を超える写真の中から、奥会津の民俗に関する写真を厳選した展示である。(期間中、展示替えあり)

秋の大内宿
秋の大内宿(昭和34年10月20日)

小滝清次郎氏(1927~2022年)は会津坂下町の出身。南会津の山々を愛し、1958年、山の仲間と「南会津山の会」を結成、中心的な役割を果たしつつ活動した人物であった。昭和20年代から登山路もない未踏の深山にも足を踏み入れ、岳人あこがれの丸山岳、坪入山・高幽山・会津駒ケ岳・燧ヶ岳・浅草岳・会津朝日岳・男鹿岳など30座余りを登り、越えた峠も戸板峠・大津岐峠など20以上にのぼる。小滝氏は南会津における登山のパイオニアの一人であり、山行記録は全国的な登山誌『山と渓谷』や「南会津山の会」の機関誌『いろりばた』などに多くの写真、紀行文、民俗学的論考として掲載されている。

下郷町 南会津町(旧田島町)羽塩の吊し味噌作り
下郷町 南会津町(旧田島町)羽塩の吊し味噌作り(昭和47年2月6日)

小滝氏を特徴づけるのは秀逸な写真群である。南会津に魅了されていた小滝氏は、1961年に旧田島町に移住し活動拠点とした。衣料品店を営む傍ら、中型カメラや複数の小型カメラを携えて、50ccのバイクを駆り、奥深い集落まで精力的に通った。ほとんどの写真に撮影時期と場所が明記されていることが資料的価値を飛躍的に高めている。

南会津町(旧舘岩村)熨斗戸 厩中門造りの民家
南会津町(旧舘岩村)熨斗戸 厩中門造りの民家

撮影時期は昭和20~50年代初頭。今年、三島町で奥会津の写真展が開催された竹島善一氏の撮影時期より少し早い時期が主である。撮影場所は南会津・奥会津と呼ばれる旧田島町・旧南郷村・旧伊南村・旧舘岩村・桧枝岐村・只見町・昭和村・金山町・三島町・柳津町・下郷町その他の市町村に及んでいる。中には廃村となった旧舘岩村塩ノ岐最奥の八塩田、只見町田子倉、奥只見湖に沈む前の大津岐・狼拝・銀山平周辺、ダム群完成前の只見川、金山町三条、旧舘岩村保城、旧会津高田町大岩、観光地化される前の大内宿・旧舘岩村前沢集落など、今では見ることができない風景も多数含まれている。

南会津町(旧舘岩村)川衣 山村の男(昭和29年5月17日)
南会津町(旧舘岩村)川衣 山村の男(昭和29年5月17日)

「日本山岳会」だけでなく「山村民俗の会」にも所属していた小滝氏の撮影対象は、山河よりも、むしろ集落・民家・行事・生業・習俗・祭りと芸能など民俗に関するものが主体と言ってよい。また古道、路傍の石仏・道標などの石造物や神社仏閣・仏像などの文化財も数多い。そして農山村に生きる人々の逞しく素朴な表情にもレンズを向けている。小滝氏のまなざしはとても温かい。

その長年にわたる活動は『南山の道 小滝清次郎写真作品集』(歴史春秋社 1975)に結実した。6分野、114枚の写真が掲載されている。しかし未掲載となった貴重な写真も多かったことから、筆者より福島県立博物館への寄贈をお願いし、2020年以降、断続的に寄贈が行われた。現在、館内でデジタル化などの整理が続けられているが、その総数はネガ等を含めて8000枚(コマ)を優に超える。

廃村となった金山町三条の民家
廃村となった金山町三条の民家(昭和49年6月9日)

小滝氏の資料を含め写真には、今はない実物や風景が写真という形で残ったケースが数多く存在する。最近の例としては「竹島善一写真展」や「写真展 懐かしき東北・美しき東北」が好例と言えよう。記録としての写真が持つ意味は重要性を増している。

また一枚の写真には多くの情報が内包されており、撮影者の意図に関わらず様々なものが写り込んでいる。異なる視点・関心で見た時に気付く要素も同居している。小滝氏の写真に関して、ある林業関係者は主題である民家の背後に写っている森林の様相や変化に注目していると言う。古道の研究者によって、写真の片隅の道標が思いがけず旧街道の道筋を証明することになった例もある。その価値は実に多様である。

実物資料が急速に失われていく現在そして今後、写真は実物に準ずる資料という枠を超えて、絵画や図象から読み取る歴史学の様に、写真分析をメインとする「写真民俗学」のような動きが加速するかもしれない。小滝氏の写真資料はその可能性を示唆している。

この機会に、是非、写真展に足を運んでいただければ、関わってきた者として幸いである。小滝氏の寄贈資料のうち、2020年8月の第1回寄贈分302枚については、登山家としての経歴も含めて、『福島県立博物館研究紀要』第35号で紹介した(大里正樹・長島雄一「写真資料から見える会津の風景」)。またこの第1回寄贈分の写真は、既に福島県立博物館HPの収蔵資料データベース(http://jmapps.ne.jp/fukushima/index.html)にもキーワード「小滝清次郎民俗写真」として公開されているのでご覧いただきたい。なお小滝氏の資料整理はデジタル化をメインに現在も継続中である。

(掲載写真は全て福島県立博物館蔵)